けんさく先生の日記

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2023.04.18

勉強のお話し

 医学部の学生の頃の話しです。進級を決める試験があり、私が自信をもって選択肢を選び解答したところが、不正解になっていたことがありました。気になったためその科目の教科書で確認してみたところ、やはりその選択肢は正しい解答のようでした。担当されていた先生に偶然廊下で出会いその件を尋ねたところ、以下のように述べられました。『あー、それね。今はそんなことはしないよ。教科書は10年前、20年前のことが平気で書いてあるからね。教科書なんかで勉強したらダメだよ』。

 その発言を聞いた際に口にこそ出せませんが、『じゃあ、何使って勉強したらいいんだよ!』と、相当腹が立ったことを今でも覚えています。しかし今となってはその先生の言われる気持ちがよく分かります。大学受験で数学の三角関数や積分の公式が、『実はこれは最近こうじゃないんです』と訂正されることはまずありません。しかし医学ではこの前まで常識であったことはしばしば覆されます。急性心筋梗塞の初期治療で『MONA』というものがあります。M=Morphine(モルヒネ→鎮痛などの目的)、O=Oxygen(酸素投与)、N=Nitrate(ニトロ、硝酸剤の投与) 、A=Aspirin(アスピリン、いわゆる血液サラサラの薬をかみ砕いて飲む)の頭文字をとったもので、私自身も医師になってから心筋梗塞の患者さんを診たら、以前は酸素の値が悪くなくても酸素投与を行っていました。

 しかしここ何年かの間に急性心筋梗塞患者に対してのいわゆるルーチンの酸素投与を否定する論文が出てきたため(Circulation 2015;131:2143-2150,N Engl J Med 2017;377:1240-1249)、現在では酸素化の保たれた急性心筋梗塞の患者さんにやみくもに酸素投与を行うことはなくなりました。しかし今でも学生さんが読むような医学用の教科書、参考書を拝読すると、『MONA』という言葉はそのまま注釈なしに残っていることがあります。教科書が全く以てダメということはありませんが、編集されるまでにどうしても時間を要して発行されますので、最新の情報が載っているということはありませんし、それが発行してから数年たてば、時代に合わない記載が必ず出てきます。

 一番よいのは自分で最新の論文に目を通すことです。ただし毎週のように世界から新しい論文が発表され、それをすべて目を通すことは不可能です。SNSや医学系のニュースで大まかな情報を得て、気になれば論文を手に入れるか、または講演会や学会などに参加して、知識の整理やupdateすることも大事になります。

 ただある先輩からは『一番の勉強は自分で英語で論文を書くことだよ。どんどんね。』、と以前言われたことがあります。確かにそれもその通り、と思いますが、ここに関しては私は沈黙するしかありません…。偉そうにいろいろ書いてみましたが、勉強は嫌いではありませんが、得意でないことに改めて気付かされます。真の学問への道に至ることはなかなか難しいことを実感する毎日です。

 

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